がんの補完代替医療ガイドブックはもう古い?公開から10年以上、フアイア(Huaier)が示す「新しいエビデンスと可能性」



<執筆者>
笹森有起
薬剤師、漢方薬・生薬認定薬剤師。
日本薬科大学「漢方アロマ:漢方医療従事者専攻コース」非常勤講師。
看護管理者・看護教育者のための専門誌『看護展望』にて「漢方で癒されよう」を連載中。
2012年、厚生労働省は『がんの補完代替医療ガイドブック』〔※1〕を公開しました。
その中では、「がんの予防や治療、副作用の軽減などに関して、確実に有効性が証明された健康食品はありません」と記載されています。
この文言は、当時の科学的根拠に基づいた冷静なまとめであり、決して「補完医療を否定している」わけではありません。
ところが、この記載をもって「補完医療=効果がない」「健康食品=意味がない」と断定的に解釈する医療者や情報発信が少なくありません。問題は、“ガイドブックの内容”そのものではなく、「2012年当時の情報を根拠に、今もなお補完医療全体を否定してしまうこと」 にあります。
それから10年以上が経ち、医療研究の世界では新しいエビデンスが次々と報告されています。
「2012年」と「2025年」を隔てる、エビデンスの進歩
フアイア(Huaier)は、中国で抗がん医薬品として承認されている生薬です。
2018年に発表された1000名規模のランダム化臨床試験では、肝がん術後の生存率を有意に改善したと報告されました〔※2〕。
この研究成果は、厚労省ガイドブックが作成された2012年当時にはまだ存在していなかった新しいエビデンスです。つまり、10年以上前の基準で“補完医療全体”を否定するのは、最新の研究成果を反映していないということになります。
科学は「効かないこと」を証明できない──補完医療をめぐる誤解
フアイアの臨床研究に携わる院長の新見正則先生は、オックスフォード大学で移植免疫学の博士号(Ph.D)課程に在籍した研究者です。
新見医師はこう語ります。
「ぼくは5年間、オックスフォード大学で移植免疫学の博士号、Ph.D課程に在籍する間にこの“悪魔の証明”にまつわる科学の向き合い方を教わりました。
Ph.Dとは哲学博士、つまりものの考え方を知っているという意味であり、Ph.D課程とはものの考え方を教えてくれる課程でした。
批判すること、否定することは本来はとても大変なこと。
しかし実験をすれば結果が出る。これを積み重ねれば確からしさの確率を上げていける。」「極論をいうと、“ない”を証明すること、いわゆる“悪魔の証明”は理論上できません。
効かないとわかっているものを効くと言い張るのは論外ですが、そもそも科学者は“効かないことの証明”ができないということを理解してほしい。できるのは『これはどうやらよさそうだ』『こちらはいまひとつかもしれない』という傾向の判断です。その確からしさの多数決が標準療法です。」
——新見正則 医師(OTONA SALONEインタビューより)〔※3〕
科学の本質は、新しいデータを積み重ねながら「より確からしい理解」に近づいていくことにあります。だからこそ、「効かない」と言い切ることよりも、どうすれば確からしさを高められるかを考える姿勢こそが、科学的といえると考えます。
「補完医療=否定」ではなく、「科学の進化の途中」として捉える
薬剤師である私・笹森も、臨床の現場で感じるのは、補完医療の中にはまだ検証途中のものもあれば、すでに確かなデータを持つものもあるということです。
データの中にも、信頼度や研究規模によって「エビデンスのレベル」があります。医療の世界ではこの違いを理解しておくことが、とても大切です。興味のある方は、こちらの記事もご覧ください。
「ガイドラインに書いてあるから否定する」という態度ではなく、“古い情報をそのまま信じていないか”を確認する視点が大切ではないでしょうか。
フアイアは「免疫を整える」ことを目的とし、標準治療と併用が可能な“補完医療の新しいかたち”です。2012年のガイドブックが生まれた時代から10年以上経ち、「エビデンスを持つ補完医療」が現れ始めたこと自体が、科学の進歩を示しているといえます。
まとめ:古い否定ではなく、最新の確からしさで選ぶ
補完医療は、標準治療を否定するものではありません。標準治療を支え、整え、続けやすくするための方法として今後ますます注目されていく領域です。
2012年の厚労省ガイドブックは、当時の科学を守るために作られました。しかし2025年の今、私たちは次のステージに立っています。
「否定」ではなく「更新」で考えること——
それが、患者さんにとってより良い治療選択につながると信じています。
引用・参考文献
※1 厚生労働省『がんの補完代替医療ガイドブック』(2012年3月)
https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/doc/pdf/cam_guide_3rd_20120220_forWeb.pdf
※2 Wang M et al. A clinical study on the use of Huaier granules in post-surgical treatment of primary liver cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2018;144(8):1617-1625.
※3 OTONA SALONE「「効かないことの証明」はできない。冴えない治療しかない以上は「確率を上げていく」ことが重要ではないのか」(2025年)
https://otonasalone.jp/593337/
※OTONA SALONE がん標準治療は「最善の選択肢」ではあるが「最強の最新治療」ではない。「タイムラグ」が生み出す機会損失と不安の土壌、識者の指摘をよくよく聞いてみた【医師×薬剤師】https://otonasalone.jp/585802/(2025年)
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