乳がん再発を防ぐには?免疫と生活習慣から考える対策



<執筆者>
笹森有起
薬剤師、漢方薬・生薬認定薬剤師。
日本薬科大学「漢方アロマ:漢方医療従事者専攻コース」非常勤講師。
看護管理者・看護教育者のための専門誌『看護展望』にて「漢方で癒されよう」を連載中。
乳がんの治療を終えたあと、「もう再発しないだろうか」という不安を抱える方は少なくありません。
手術や放射線治療、ホルモン療法が終わっても、からだやこころの緊張が続いてしまう。これは多くの方に共通する自然な感情です。
実際、乳がんは治療後の経過観察期間が長く、再発リスクと向き合う時間も決して短くありません。そのため、「これから何を意識して過ごせばいいのか」を知ることが、安心につながります。
再発リスクを高めると考えられる要因
乳がんの再発は、がん細胞が体内に残っていた場合に時間をおいて再び増殖することが原因です。再発には「局所再発(手術した部位付近)」と「遠隔転移(骨や肺、肝臓など)」があります。
再発リスクを左右する要因には、がんのタイプ、ホルモン受容体やHER2の有無、ステージ、そして生活習慣や年齢などが関係します。
日本乳癌学会のガイドラインでも、ホルモン受容体陽性タイプの患者さんでは治療後10年以上経過してからの再発も報告されています。
つまり、長い時間をかけて“体調を整えること”が、再発予防の基盤になるのです。
再発予防に関わる生活習慣と免疫の関係
乳がんの再発リスクと生活習慣の関連については、いくつかの研究で共通点が見えてきています。

体重管理(肥満の予防)〔¹〕〔²〕
肥満や体重増加は、乳がん既往者の予後不良(死亡・再発リスク上昇)と関連する報告が多数あります。したがって体重管理(BMIの維持)は推奨されます。食事の質と適度な運動を組み合わせて進めましょう。

運動習慣〔³〕〔⁴〕〔⁵〕
中等度の有酸素運動を週150〜300分+筋力トレーニングが推奨されます。観察研究や総説では、運動量が多いほど全死亡・乳がん死亡・再発の低下と関連する傾向が示されています。まずは1日30分、週5回を目標に始めましょう。

食事と栄養(大豆イソフラボン)〔⁶〕〔⁷〕〔⁸〕
大豆食品(納豆・豆腐・豆乳など)に含まれるイソフラボンの摂取は、再発・死亡の低下と関連する観察研究が複数あります。タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬との併用で悪影響を示す根拠は乏しく、過度な制限は推奨されません。日常食として適量を継続するのが現実的です。 また、抗酸化作用のある野菜や果物を意識的に摂ることも推奨されています。

ストレスと睡眠〔⁹〕〔¹⁰〕〔¹¹〕
心理的ストレスや睡眠障害は、乳がんサバイバーの生活の質(QOL)低下や炎症反応の上昇と関連する報告があります。直接的に「再発率を下げる」とまでの因果関係は確立していませんが、ストレスマネジメントや十分な休息は、自律神経・免疫バランスを整え、治療の継続を支える重要な要素とされています。
免疫のバランスが再発予防のカギ
免疫を「落とさない・底上げする」ことが再発予防の近道
私たちのからだでは、毎日少しずつ「異常な細胞」が生まれます。
それを見つけて対処してくれているのが免疫システムです。ところが、疲労・ストレス・睡眠不足・加齢などが続くと、免疫の働きが落ちて“見逃し”が起こりやすくなります。
大切なのは、免疫を下げない生活を続け、日々の土台をコツコツ底上げすること。
具体的には、先に触れたように
- 体重管理(余分な脂肪をためない)
- 中等度の運動(まずは1日30分のウォーキングから)
- 大豆食品を中心とした整った食事
- 質のよい睡眠とストレス対策
が“免疫の落ち込み”を防ぎ、監視力を保つための現実的な方法です。
標準治療を終えたあとも、免疫の土台を上げ続ける習慣づくりが、長い経過観察の期間を安心して過ごすための鍵になります。日々できることを少しずつ積み重ねていきましょう。
標準治療と補完医療の併用という考え方
近年では、標準治療に加えて、「補完医療(補完代替医療)」を併用する患者さんも増えています。
補完医療とは、標準治療の「代わり」ではなく、標準治療を「補い」「支え」ながら、生活の質(QOL)の向上や、からだ本来の回復力・免疫のはたらきを整えることなどを目的とする医療です。
フアイア(Huaier)は、その代表的な一つです。中国では抗がん医薬品として認可されており、2018年には肝がん術後の再発抑制と生存率改善を示す1000名規模の臨床試験結果が報告されています〔※1〕。
乳がんに対するエビデンスとしては、再発率の高い傾向にあるトリプルネガティブ乳がん術後患者に対するランダム化臨床試験で3年・5年生存率の改善が報告されています※2。
フアイアの疾患エビデンスに関しては以下の記事をご覧ください。
日本では医薬品として承認されていませんが、重篤な副作用がなく、標準治療との併用が可能であることから、再発予防のサポートとして注目されています。
補完医療は、科学的根拠の更新とともに進化していく領域です。
まとめ:再発を「恐れる」から「整える」へ
再発の不安を完全に消すことはできません。けれども、日々の生活の中でできることを積み重ねることで、「恐れ」から「整える」へと意識を変えていくことはできます。
食事、運動、睡眠、ストレスケア——。そして、免疫のバランスを保つサポートとしての補完医療。そのすべてが、からだ本来の力を支える柱になります。
治療を終えた今だからこそ、 “再発を防ぐためにできること”を少しずつ実践していきましょう。
引用・参考文献
※1Wang M et al. A clinical study on the use of Huaier granules in post-surgical treatment of primary liver cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2018;144(8):1617–1625.
※2Gland Surgery, 2020; 9(1): 250–258.(PMID: 32042684)
※日本乳癌学会『乳癌診療ガイドライン2022』生活習慣と再発リスクの項
※国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」再発・転移について
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html
〔¹〕 Chan DSM et al. Body mass index and survival in women with breast cancer—systematic literature review and meta‐analysis of 82 follow‐up studies. Ann Oncol. 2014;25(10):1901–1914.
〔²〕 Runowicz CD et al. American Cancer Society/American Society of Clinical Oncology Breast Cancer Survivorship Care Guideline. J Clin Oncol. 2016;34(6):611–635.
〔³〕 Holmes MD et al. Physical activity and survival after breast cancer diagnosis. JAMA. 2005;293(20):2479–2486.
〔⁴〕 Spei ME et al. Physical activity and survival after breast cancer diagnosis: meta-analysis of observational studies. Breast Cancer Res Treat. 2019;176(3):485–494.
〔⁵〕 NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines®): Survivorship. Version 2.2025.〔⁶〕 Shu XO et al. Soy food intake and breast cancer survival. JAMA. 2009;302(22):2437–2443.
〔⁷〕 Zhang FF et al. Dietary soy isoflavone intake and breast cancer recurrence and survival: a meta-analysis of prospective studies. Breast Cancer Res Treat. 2017;161(2):269–277.
〔⁸〕 Rock CL et al. Nutrition and physical activity guidelines for cancer survivors. CA Cancer J Clin. 2012;62(4):242–274.
〔⁹〕 Spiegel D et al. Effect of psychosocial treatment on survival of patients with metastatic breast cancer. Lancet. 1989;2(8668):888–891.
〔¹⁰〕 Palesh O et al. Sleep disruption and its correlates in women with breast cancer before and after treatment: a review. Sleep Med. 2010;11(2):135–142.
〔¹¹〕 Antoni MH et al. Cognitive-behavioral stress management and quality of life in women undergoing treatment for breast cancer. Health Psychol. 2006;25(4):510–520.


