乳がん治療と漢方──ホルモン療法中の不調をやわらげる“もう一つの支え”



<執筆者>
笹森有起
薬剤師、漢方薬・生薬認定薬剤師。
日本薬科大学「漢方アロマ:漢方医療従事者専攻コース」非常勤講師。
看護管理者・看護教育者のための専門誌『看護展望』にて「漢方で癒されよう」を連載中。
乳がんの治療では、ホルモン療法や抗がん剤など、長期にわたる内服が続くことがあります。その一方で、「副作用がつらい」「体調を立て直したい」という声は少なくありません。
そうした中で漢方や生薬製剤も注目されています。近年は、東洋医学的な枠組みだけでなく、自律神経・内分泌・消化管ホルモン・炎症性サイトカインなどの生理学的メカニズムからの検討が進み、がん治療の支持療法(supportive care)としての位置づけが議論されています〔¹,²〕。
漢方の基本は「バランスを整える」医療
漢方では「気・血・水(き・けつ・すい)」の流れを整えるとよく言われますが、現代医学で言い換えるなら、血流・ホルモン・自律神経・免疫のバランスを保つこと。
乳がんの治療中は、ホルモンの変化やストレスなどでこのバランスが崩れやすく、のぼせ・不眠・食欲不振・疲労感などの不調が出てきます。
漢方はそうしたからだ全体の不安定さを立て直すサポートとして用いられます。
がん治療のサポートやホルモン療法中の不調に使われる代表的な漢方薬・生薬製剤
1. 加味逍遙散(かみしょうようさん)
ホットフラッシュ、いらいら、不眠など、ホルモン療法中の更年期様の不調に。
神経の緊張をゆるめ、情緒の安定や血流の改善を助けます。
2. 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血の巡りを整え、のぼせや冷え、肩こり、月経不順の改善に。
乳がん術後の瘢痕部の血行不良をやわらげる目的でも使われます。
3. 六君子湯(りっくんしとう)
胃腸の働きを助け、食欲不振や疲労感を改善します。
抗がん剤治療後やホルモン療法中に体力が落ちている方にも向きます。
4. 抑肝散(よくかんさん)
不眠や神経の高ぶりがあるときに。
自律神経のバランスを整え、落ち着きを取り戻すサポートをします。
5. フアイア(Huaier)
中国で医薬品として承認されている生薬成分。
肝がんの術後で1000名規模の臨床試験により、再発抑制と生存率の改善が報告されています〔³〕。
また、乳がん(トリプルネガティブタイプ)の臨床試験でも、3年・5年生存率の改善が確認されています(Gland Surgery, 2020)〔⁴〕。
フアイアは免疫の働きを整えながら高める作用を持ち、炎症やストレスによる体調の乱れを防ぐサポートが期待されています。
副作用が少なく、標準治療と併用できる点も特徴です(※日本では医薬品未承認)。

※以上は一般的な例です。実際の使用は、体質や併用薬によって異なります。
漢方とフアイア──「治療を支える医療」という共通点
日本ではどちらも治療を支える補完医療です。
ホルモン療法や抗がん剤治療を続けるうえでの体力・免疫・メンタルの維持を助け、
「治療をあきらめずに続けていくための土台」を整えることが目的です。
フアイア(Huaier)は、免疫力を上げ、からだの回復力を引き出す方向に働く生薬です。
医師・薬剤師と相談しながら標準治療と併用することで、より安全かつ効果的に取り入れることができます。
からだを整えながら、治療を続けていく
治療の副作用や心身の負担をやわらげることで、「治療を続けやすくする」ための支えになります。
乳がん治療は長い道のりです。
からだを整えながら、日々を穏やかに過ごすこと。
そのための一つの方法として、漢方やフアイアの力を上手に活用していきましょう。
引用・参考文献
〔¹〕日本乳癌学会『乳癌診療ガイドライン2022』副作用管理の章
〔²〕日本東洋医学会「がん治療と漢方」特集記事
〔³〕Wang M et al. A clinical study on the use of Huaier granules in post-surgical treatment of primary liver cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2018;144(8):1617–1625.
〔⁴〕Gland Surgery. 2020;9(1):250–258.(PMID: 32042684)



