フアイアはなぜ“免疫”に働く?研究データから読み解く「免疫調整」メカニズム

フアイアの免疫調整作用について、次のようなご質問をいただくことがあります。
「免疫を“調整”するとはどういう意味ですか?」
「なぜフアイアがそのような働きをするのでしょうか?」
今回は、フアイアがどのように免疫に関与し、その働きがどのような根拠に基づいているのかについてご説明いたします。
免疫調整作用を持つ「フアイア」とは?
フアイア(学名:Trametes robiniophila Murr.)は、キノコの菌糸体から抽出された生薬で、近年ではがん治療の分野において高い注目を集めています。
例えば、特に治療の難しいとされる肝がんの術後患者を対象とした大規模な臨床試験※1では、無再発率・生存率において有意な改善効果が示されました。約1000名を対象としたランダム化比較試験で得られたデータであり、信頼性の高いエビデンスの一つとされています。
また、がん以外の領域でも、たとえば腎炎やアレルギー性疾患、自己免疫疾患などにおいても、フアイアの免疫調整作用が有効に働く可能性が示された研究報告があります。こうした複数の臨床データが、フアイアの有用性を医学的に裏付けています。
「免疫調整」とは?
一般に「免疫を高める」と聞くと、単純に免疫細胞の働きを強くすることを想像されるかもしれません。しかし、免疫は“強ければ良い”というものではありません。
免疫反応が過剰になれば、アレルギーや自己免疫疾患のリスクが高まります。一方で、免疫反応が弱すぎれば、感染症やがん細胞に対する防御力が低下します。
このように、免疫には「適切なバランス」が必要です。
フアイアが担っているのは、この“免疫のバランスを整える”という役割です。
免疫調整の鍵を握る「TPG-1」
フアイアの治療効果と関連する唯一の糖鎖として特に注目されているのが、「TPG-1」という成分です。
このTPG-1が、免疫細胞に対してどのような影響を与えるのかが、2019年に権威ある生化学専門誌「Journal of Biological Chemistry(JBC)」に掲載された研究※2によって明らかになりました。
免疫の『起点』TLR4に作用するTPG-1
私たちの体には、「TLR4(Toll-like receptor 4)」という免疫センサーが存在しています。これは主にマクロファージ(貪食細胞)の表面にあり、細菌やウイルス、腫瘍細胞などを感知するアンテナのような“受容体”です。
研究によると、TPG-1はこのTLR4に直接結合することから、その作用が始まることが明らかになりました。
- 「異物を見つけるアンテナ」TLR4にTPG-1が結合
私たちのマクロファージの表面には、細菌やウイルスなどの病原体、あるいはがん細胞などの異常な細胞が持つ特有のパターンを認識する「TLR4」という受容体があります。TPG-1は、このTLR4にピタリと結合することが実験で確認されています。
この結合が、免疫応答の最初の「スイッチ」となります。 - 細胞内シグナル伝達経路の「活性化」
TPG-1がTLR4に結合すると、マクロファージの細胞内で「NF-κB」や「MAPK(ERK, JNK, p38)」といった重要なシグナル伝達経路が活性化されます。これらは、細胞が外部からの情報を受け取り、内部で適切な「指令」を出すためのネットワークのようなものです。
これらの司令塔が活性化されることで、マクロファージは「異物を排除するぞ!」というモードに切り替わります。 - 炎症性サイトカインや一酸化窒素の「バランス」を調整
活性化されたマクロファージは、異物と戦うために必要な様々な物質を放出します。例えば、「炎症性サイトカイン」(IL-1β, IL-6, TNF-αなど)や「一酸化窒素(NO)」などです。
これらは、過剰になると体に負担をかけることもありますが、適量であれば免疫応答の活性化や異物排除に不可欠な物質です。TPG-1は、これらの物質の産生を適切に促進することが確認されており、これにより免疫細胞がより効果的に機能するよう促されます。

ここで重要なのは、これらの反応が過剰ではなく「適切に誘導される」という点です。すなわち、TPG-1は免疫を暴走させるのではなく、「必要なときに、必要なだけ」免疫を働かせる方向に導いているのです。
低下した免疫機能の回復にも有用
さらに、抗がん剤治療などによって免疫力が一時的に低下したマウスモデルにおいて、TPG-1を投与することで以下のような回復効果が見られました。
- 脾臓や胸腺の萎縮抑制および回復
- T細胞・B細胞などリンパ球の機能活性化
- サイトカインバランスの正常化
これは、TPG-1が「低下した免疫機能を適切に回復させる作用」を持っていることを示しています。
まとめ
フアイアは、単に「免疫力を上げる」だけではなく、「免疫のバランスを整える」生薬です。
その作用の裏付けとして、TPG-1という成分がTLR4を介して免疫細胞に作用するという明確な分子メカニズムが示されており、フアイアの有用性は単なる伝承ではなく、科学的に検証されたエビデンスとして評価されています。

※1 Chen Q et al. Effect of Huaier granule on recurrence after curative resection of HCC: a multicentre, randomised clinical trial. Gut. 2018;67(11):2006–2016. doi:10.1136/gutjnl-2018-315983
※2 Zhang et al. An immune-stimulating proteoglycan from the medicinal mushroom Huaier up-regulates NF-κB and MAPK signaling via Toll-like receptor 4. J Biol Chem. 2019;294(8):2628–2641. doi:10.1074/jbc.RA118.005477