乳がんホルモン療法中の副作用と上手につきあう──補完医療とセルフケアの新しい選択肢



<執筆者>
笹森有起
薬剤師、漢方薬・生薬認定薬剤師。
日本薬科大学「漢方アロマ:漢方医療従事者専攻コース」非常勤講師。
看護管理者・看護教育者のための専門誌『看護展望』にて「漢方で癒されよう」を連載中。
乳がんの治療を受けたあと、多くの方が行う「ホルモン療法」。
術後の再発を防ぐために、数年にわたって続ける重要な治療の一つです。
ただし、ホルモン療法は長期間に及ぶため、更年期のようなほてり、関節痛、気分の落ち込みなど、日常生活に影響する不調が続くことも少なくありません。
ここでは、ホルモン療法中の不調と上手につきあうための考え方を、補完医療やセルフケアの視点からご紹介します。
ホルモン療法とは?
乳がんの中には、女性ホルモンの影響を受けて増殖するタイプがあります。
ホルモン療法は、体内のエストロゲン(女性ホルモン)の働きを抑えることで、再発や転移のリスクを減らす治療です。
主に使用されるのは、
- タモキシフェン(閉経前後)
- アナストロゾールやレトロゾールなどのアロマターゼ阻害薬(閉経後)
といった薬で、一般的には5年〜10年ほどの服用が推奨されています。
効果が高い一方で、更年期様症状が現れることもあります。
治療のためとわかっていても、毎日の不調がつらい
気分が落ち込み、治療を続ける自信がなくなる
そんな声も多く聞かれます。
治療をしっかり続けるためには、副作用とうまくつきあう工夫が大切です。
不調の原因は「ホルモン」と「免疫」のバランス
ホルモン療法中の不調は、単に女性ホルモンが減るだけでは説明できません。
エストロゲンの低下は自律神経や免疫機能にも影響を及ぼし、体温調整や気分の安定に関わるバランスが乱れやすくなります。
- ほてり・のぼせ
血管拡張・収縮を調整する自律神経の乱れ - 関節痛・筋肉痛
炎症性サイトカイン(IL-6など)の増加 - 気分の落ち込み
神経伝達物質セロトニンの低下、睡眠リズムの変化
つまり、「ホルモン」「自律神経」「免疫」は互いに影響し合う関係にあります。
この仕組みを理解し、免疫の働きを支え、回復しやすいからだを整えることがセルフケアの第一歩です。
セルフケアでできる3つのポイント

1. からだを温め、血流を整える
冷えは自律神経やホルモンバランスを乱す大きな要因です。
シャワーだけでなく、湯船につかる習慣を。
無理のない範囲での軽いストレッチやウォーキングも有効です。

2. サポート成分を上手に取り入れる
大豆イソフラボンから腸内でつくられるエクオールは、女性ホルモンに似た穏やかな作用を示し、ホルモン療法との併用も可能とされています〔¹〕。
また、漢方や生薬の中でも注目されているのがフアイア(Huaier)です。
フアイアは免疫の働きを支える生薬で、疲労や治療ストレスによって低下しやすい免疫バランスの安定化に寄与します。2018年には、肝がん術後の再発予防効果が報告されており〔²〕、標準治療と併用可能な安全性の高い補完医療として注目されています。
フアイアは「免疫を高める」ではなく「整える」ことを目的とした生薬。がんのように下がってる免疫は上げ、アレルギーや自己免疫疾患のように過剰な免疫は落ち着かせる作用があります。
標準治療と併用が可能で、副作用が少ない点も特徴です。

3. こころの不調に気づいたら早めに相談を
ホルモン療法中の抑うつ気分や不眠は、我慢せず医療者に相談を。
カウンセリングや補助療法を併用することで、治療を継続しやすくなるケースもあります。
一人で抱え込まず、サポートを受けることが治療の一部です。
補完医療という「もうひとつの支え」
標準治療は、がんそのものに対して行う最も重要な治療です。一方で、補完医療は「からだ全体のバランスを整え、治療を続けやすくする」ためのもの。
その目的は、「代わり」ではなく「支える」ことです。副作用を和らげ、QOL(生活の質)を保ちながら治療を続けるための選択肢として位置づけられています。
ホルモン療法中の不調を完全にゼロにすることは難しくても、補完医療を上手に取り入れることで、「続けやすさ」を支えることはできます。
まとめ:治療を“やめないため”のセルフケアを
ホルモン療法は、再発予防のために欠かせない治療です。
その効果を十分に得るためには、継続が何よりも大切。
そのための支えとして、生活習慣の見直しや補完医療の活用が役立ちます。
「つらいからやめたい」ではなく、「どうすれば続けられるか」を一緒に考える。
それが、治療と向き合う第一歩です。
当院では新しい選択肢の一つとしてフアイアを取り入れた内服免疫療法を提案しています。
引用・参考文献
〔¹〕Taku K et al. Equol Improves Menopausal Symptoms in Japanese Women. J Nutr. 2012;142(5):871-877.
〔²〕Wang M et al. A clinical study on the use of Huaier granules in post-surgical treatment of primary liver cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2018;144(8):1617–1625.
〔³〕日本乳癌学会『乳癌診療ガイドライン2022』副作用管理の章



