フアイアは本当に効かない?「効かない」と言われる理由を臨床データと免疫の仕組みから読み解く



<執筆者>
笹森有起
薬剤師、漢方薬・生薬認定薬剤師。
日本薬科大学「漢方アロマ:漢方医療従事者専攻コース」非常勤講師。
看護管理者・看護教育者のための専門誌『看護展望』にて「漢方で癒されよう」を連載中。
抗腫瘍作用・免疫調整作用をもつフアイア(Huaier)は、アメリカ臨床腫瘍学会のトップエビデンスを獲得した生薬〔※1〕ですが、即効性を期待するあまり「効かない」と考え自己判断で中止してしまうケースがあります。
本記事では、臨床データや免疫学の視点から「効かない」と言われる理由を整理し、効果を実感しやすくするためのポイントを科学的に解説します。
フアイアとは?
フアイア(Huaier)は、中国では医薬品として承認されている生薬です。
2018年には肝がん術後の患者1044名を対象とした多施設ランダム化臨床試験で、再発抑制と生存率の改善が報告されました〔※1〕。
研究の蓄積から、フアイアには以下のような免疫調整作用(immunomodulation)があることが分かっています。〔※2,3〕:
- 炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)の過剰な分泌を抑える
- 免疫細胞(T細胞、NK細胞、マクロファージなど)の働きを調整する
- 腫瘍微小環境における免疫抑制を改善する
これらの働きは、「免疫を高める」ことを目的とした一般的なサプリメントとは異なり、免疫システム全体のバランスを“整える”という特徴を持っています。
「効かない」と言われる主な理由(科学的観点から)
1. 即効性の誤解
フアイアは鎮痛薬や一般的な殺細胞性抗がん剤のように“すぐに効く”タイプの薬ではありません。
免疫細胞の再構築や炎症バランスの調整には時間がかかるため、数週間〜数か月単位での変化をみる必要があります。
2. 服用期間が短い/量が足りない
医師の臨床経験上、1ヶ月以内に効果がわかる人は1割程度です。
服用量が推奨より少ない場合も、効果を実感するまでに時間がかかります。
3. 個人差(年齢・体質・治療内容)
免疫の反応は個人差が大きく、抗がん剤・放射線治療の併用状況や基礎疾患によって変動します。
体調が整うまでの期間も人によって異なります。
4. 生活習慣の影響
睡眠不足、ストレス、腸内環境の乱れなども免疫応答に影響し、効果を感じにくくさせる要因となります。
補完医療=「効かない」という誤解
もうひとつ、「効かない」と言われる背景には、補完医療そのものに対する誤解があります。
2012年に厚生労働省が公表した『がんの補完代替医療ガイドブック』〔※4〕では、
「がんの予防や治療、副作用の軽減などに関して、確実に有効性が証明された健康食品はありません」と記載されました。
この文言は、当時の科学的根拠に基づいた冷静なまとめであり、補完医療を否定するものではありません。しかし一部ではこの一文をもって「補完医療=効果がない」「医薬品ではない=意味がない」と断定する見方が広まりました。
問題は“ガイドブックの存在”ではなく、10年以上前の情報を根拠に、今もなお補完医療全体を否定してしまうことにあります。
その後の10年間で、医療研究は大きく進歩しました。
フアイア(Huaier)の生存率改善を示した大規模臨床試験(Gut 2018)は、まさにこのガイドブック公開後に報告された新しいエビデンスです。
つまり、「補完医療は効かない」という認識そのものが、すでに“過去の常識”になりつつあるのです。
科学は「効かないこと」を証明することはできません。
できるのは、「より確からしい理解」に近づくことです。〔※5〕
フアイアは、まさにその“確からしさ”を積み重ねてきた領域にあります。
臨床データと医師の知見にみるフアイアの実際
前述のとおり、Gut誌(2018年)の大規模臨床試験では、肝がん術後にフアイアを内服した群で再発率が有意に低下し、生存率も有意に改善しました。
また、フアイアを継続した方において 「感染しにくくなった」「倦怠感が減った」「治療を続けやすくなった」などの変化も多く報告されています。これらの結果から、フアイアは免疫力を上げ、治療を支える“体の回復力”を高める働きを持つと考えられます。
効果を実感しやすくするための3つのポイント

1. 継続期間:まずは1年を目安に
フアイアは免疫を中庸(ちょうどいいバランスの取れた状態)に整える生薬です。医師の経験上、免疫のバランスが大きく崩れている方ほど、比較的早く変化を感じることがあるようです。一方で、ズレが少ない方やゆっくり体質に変化が現れる方の場合、すぐには実感しにくいこともあります。
多くの方が1年ほど継続して服用する中で効果を実感しているため、焦らずご自身のペースで経過を見ていくことが大切です。

2. 服用量を調整する
フアイアは当院の処方範囲内において、重篤な副作用の報告はありません。
免疫の上がり幅は服用量に比例する傾向がありますので、より効果を期待する場合は少し多めの量でお飲みいただくことをおすすめいたします。

3. 生活との両立
十分な睡眠・バランスの取れた食事・軽い運動・筋肉量のアップは、免疫力を高め、フアイアの作用を後押しします。
続けていても体調の波はあります
実際にフアイアを続けている方から、
フアイアを飲んでいるのに風邪をひいた
白血球が下がった
ヘルペスができた
といったご相談をいただくことがあります。
そのたびに「効いていないのでは?」「自分には合っていないのでは?」と不安になる方もいらっしゃいます。ただ、慌てる必要はありません。
フアイアは「免疫を中庸(ちょうどいいバランス)に整える」ことで、長期的に体を病気に負けにくい状態に導く生薬です。
風邪やヘルペス
誰でもかかることがあり、フアイアを飲んでいても完全に防げるわけではありません。
ただ、体調の回復が早くなる、症状が軽く済むなどの形で支えになっていることがあります。
白血球が下がる
がん治療や体調の波で一時的に変動することは珍しくありません。
フアイアは直接白血球数をコントロールする薬ではなく、免疫全体のバランスを長期的に整えることが目的です。
大切なのは「短期的な出来事だけで効果を判断しない」こと。
フアイアは服用を続けていただくことで、じっくりと体を支え、臨床試験では生存率の改善が示されています。体調の波がある時こそ焦らず、長い目で見ていくことが大切です。
安全性と他治療との関係
フアイアは基本的にどんな治療(医薬品・サプリメント・補完医療等を含む)の邪魔もせず、また邪魔をされることもないため、併用が可能です。
抗がん剤・ホルモン療法・放射線治療との併用でも相互作用は認められず、むしろ治療継続の支えとなるケースもあります。
【併用のメリット】
- 免疫や回復力の維持を助け、体調の安定につながりやすい
- 免疫低下に伴う副作用(食欲低下・倦怠感など)が軽減されるケースがある
- 抗がん剤治療を「続けやすくする」サポートになる
【デメリット】
- 基本的に副作用や薬の干渉はなく、現実的には経済的なご負担のみ
免疫を「上げる」ではなく「整える」という考え方
近年、免疫チェックポイント阻害剤の副作用として、免疫が過剰に働きすぎることによる副作用が現れるリスクが指摘されています。
がんと戦うためには免疫を活性化させることが重要ですが、過剰な免疫反応は逆効果になりかねません。理想的なのは、免疫を適切なバランスで維持することです。
フアイアの臨床データでは、免疫を過度に活性化させることで生じるような副作用は報告されていません。再発予防や健康維持のために長期間服用できる安全性の高さも、フアイアの魅力の一つです。
フアイアの特長は、免疫を単純に「上げる」「下げる」のではなく、特定のタンパク質に対する免疫応答を調整する点にあります。その結果、体全体の免疫バランスを適切に保つ(=中庸にする)ことができるのです。〔※6〕
フアイアはなぜ“免疫”に働く?研究データから読み解く「免疫調整」メカニズム

フアイア(Huaier)の中心となる有効成分「糖鎖TPG-1」の働き
まとめ:期待と現実のバランスを理解する
フアイアは「劇的に効く」ものではありませんが、免疫を整えることで治療を支え、体調を安定させる可能性があることが示されています。
効果には個人差があり、体質・服用期間・生活習慣が影響します。
不安な場合は、医師や薬剤師に相談のうえ、自分に合った続け方を見つけることが大切です。
引用・参考文献
※1 Wang M et al. A clinical study on the use of Huaier granules in post-surgical treatment of primary liver cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2018;144(8):1617–1625.
※2 Li Y et al. Huaier suppresses tumor progression through immune modulation: A review of experimental studies. Front Pharmacol. 2022;13:960782.
※3 Guo Y et al. Immunomodulatory effects of Trametes robiniophila Murr (Huaier) on tumor microenvironment. Int Immunopharmacol. 2021;96:107585.
※4 ※1 厚生労働省『がんの補完代替医療ガイドブック』(2012年3月)https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/doc/pdf/cam_guide_3rd_20120220_forWeb.pdf
※5 OTONA SALONE「「効かないことの証明」はできない。冴えない治療しかない以上は「確率を上げていく」ことが重要ではないのか」(2025年)
https://otonasalone.jp/593337/
※6 Zhang et al. An immune-stimulating proteoglycan from the medicinal mushroom Huaier up-regulates NF-κB and MAPK signaling via Toll-like receptor 4. J Biol Chem. 2019;294(8):2628–2641. doi:10.1074/jbc.RA118.005477



